緊張と緩和と臆病と大胆

書きたいことだけ

ハートはそのままで

ガラピコが好きだ。
ガラピコとは、おかあさんといっしょ内で放送される人形劇「ガラピコぷ~」に登場するロボットである。
ガラピコはロボなので、常に動きがカクカクしている。
ガラピコぷ~のキャラクターたちは、人形劇だけでなく、お兄さんお姉さんと共演もする。
そのときも、ガラピコはカクカクしている。
おかあさんといっしょ内の最後のダンスで、短い腕をカクッカクッと振って踊っている姿はとても可愛い。
最初に見たとき、あまりに律儀にロボットの動きをするので、可愛くておかしくて、隣にいた夫に
「ねえ!気づいた?ガラピコはカクッカクッて動いてるよ!ロボだから!ロボットだからね!正しいね!可愛いね!」とやたら興奮して報告してしまった。
ちなみにロボなので、性別不明らしい。

ガラピコは、他の登場人物であるチョロミーやムームーの住む星に不時着した、ストレンジャーである。
不時着の衝撃によってか、ガラピコのもともとの特性によってか、その両方かはわからないが、他人の気持ちを考えることはとても苦手だという。
胸のパネルは、普段は割れたハートを表示していて、他人の気持ちが理解できると少しの間だけ、綺麗なハートに変化する。

ガラピコはチョロミーやムームーや優しい大人たちによって、少しずつ他者と分かりあっていく。
時にはなんとアルバイトまでしてしまう。
アルバイトでは、何でも売ってるお店で、そのときそのときのお客さんに、色んなものをおすすめする。
お客さんがいなくなれば、うまくおすすめできたことを喜ぶ。
えらいなあ。とってもえらいなあ。

ガラピコは、突然赤ちゃんになったり忍者になったりもする。
赤ちゃんはかわいいし、可愛がられるから、赤ちゃんになりたい気持ちはよくわかる。
私もたまに、床にねっころがって手足をじたばたさせて「おぎゃあばぶう!」って泣き叫んでたら優しい大人がそっと抱き上げてくれて美味しいご飯を作ってくれる世界に行きたくなる。
忍者だってとってもかっこいいし、すごい忍法をたくさん使えるから、なれたら素敵だろうなあ。
ガラピコは、赤ちゃんになるときも忍者になるときも、専用のコスチュームでバシッと決める。
これがまた、本当によく似合っているし、あっ、このロボは遊びでやってるんじゃないんだな、本気なんだな、という決意を感じさせる。
絶対しゃべりにくくなるのにおしゃぶりもする。
胸のパネルも「忍」とかなる。
最高にクールだ。
外国人観光客がいたらあまりのクールさにiPhoneで写真500枚くらい撮って充電切れてるし、肩をすくめて両手のひらをヒョイッとしつつため息つきながらの「Oh…cool japan…」だ。

また、ガラピコのことを決して怒らず、いつも優しく「そうだね、こうなんだよ、僕はこう思ったんだよ」と話すムームーもとても好きだし、相手が誰であろうと天真爛漫に自分を貫くチョロミーも最高にキュートだと思う。
余談だが、ムームーの嫌いな食べ物がピーマンと知って、「ぽろりじゃん…!」と嬉しくなったにこぷん世代である。にこにこ仲間がいるんです。

ガラピコのハートはこの先どうなるかわからない。
物語的に美しい結末は、他人と分かり合うことを知ったガラピコのハートは、すっかり綺麗な、ひび割れのない元のハートに戻りました、というものなのだろう。
でも、私はガラピコのことが今でも本当に好きだ。
なんていじらしくていとおしいんだろうと思う。

ひび割れたもの、欠けたもの、失われたものが、すっかり元通りになることはとても喜ばしく、美しい。
けれど、ひび割れや欠けや喪失を抱えた上で、知恵や工夫を凝らして生きることも、同じくらい美しいと思う。
金継ぎを施された器が唯一無二の存在となるように、修復を重ねられた絵画が当初のものとは異なる輝きを放つように。

さらに言えば、知恵や工夫を凝らさなくてもいい。
ガラピコはそのままでいいし、他人の気持ちが分からないなら分からないでいい。
アルバイトを頑張っているガラピコはとても偉くてすごいけど、ガラピコがアルバイトなんかやりたくないですぷ~!と言いだしたとしても、それはそれでいいと思う。
別に人の役に立たなくてもいいよ。
ガラピコのしたいようにしてくれればそれでいいよ。
ただ、一人ぼっちにはならないでほしい。
それから、自分のことを好きでいてほしい。

もしもガラピコのハートが元通りに綺麗になったら、良かったねとお祝いしたい。
ひびの部分に金継ぎをいれてみたり、ひびが入ったままリボンを巻いてみたり、赤いハートの他にピンクのハートを手に入れてみたりしたら、拍手して褒め称えたい。
ひびが入ってずっとそのままだったとしたら、そうなんだね!と抱き締めたい。
どんなガラピコも、だいだい大好きだ。





これも余談ですが、ガラピコにんじゃしゅぎょうの時の、まことお兄さん、あづきお姉さんの手甲には、ガラピコとお揃いの、ひび割れたハートのマークがありますね。
二人は不時着したわけではないので、本当にハートがひび割れているわけではなく、単なる意匠だとは思うのですが、それでもガラピコたちとは互いに未知の存在であることは間違いないと思うのです。
二人があのコーナーや、おかあさんといっしょ全体を通して、子供だけでなく、ガラピコたちとどう分かりあっていくのか、二人のハートはどう変わっていくのか、とても楽しみです。